1954年から55年にかけて三一書房から順次刊行された「日本プロレタリア文学大系」は、プロレタリア文学研究の基本文献で、第1巻「運動擡頭の時代」から第8巻「転向と抵抗の時代」に、序巻「母胎と生誕」を加え、9巻で構成される。解説はいずれも小田切秀雄氏で、各巻末に年表がつく。
里村欣三の作品は第2巻に「苦力頭の表情」が掲載されているだけなのは寂しい。判形はB6判。
 古書値は安く、1万円を少し超えるくらいで、全巻が入手できることもある。
 新日本出版社の『日本プロレタリア文学集』は、全40巻に、別巻の『プロレタリア文学資料集・年表』(資料集は祖父江昭二、年表は浦西和彦氏)を加え、1984年から刊行が開始された。文芸戦線派の作家は第10巻から13巻までに集約され、里村の作品は第10巻に「苦力頭の表情」「娘の時代」「シベリアに近く」「放浪の宿」「旅順」「帰ってくれ」と、比較的手厚く収載されている。
 判形はB6判の角背で、端本の古書値は800円〜1300円であるが、全集揃い(全41巻)が2万円前後で売られていたりする。
 プロレタリア文学研究の基本文献の一つである『日本プロレタリア文学書目』は、浦西和彦氏の編集で1986年3月10日、日外アソシエーツから12000円で刊行され、今でも新刊書店で手にはいる(と思います)。
 プロレタリア文学運動に関わった作家の昭和20年までの書目を掲載しているので、里村欣三の場合、戦記文学が大半を占めることになるが、作家の軌跡を追う場合、逆にそれが大変便利だったりする。
 A5判、465ページ。
 浦西和彦著『近代文学資料6 葉山嘉樹』。本書は「年譜」「著作目録」「参考文献目録」「葉山嘉樹宛書簡」で構成され、小田切秀雄氏が本の帯で「画期的研究」と激賞するように、詳細を究める年譜研究で、プロレタリア文学研究の一つのあり方を示したもの。
 徴兵忌避・逃亡の里村欣三が、昭和10年、徴兵忌避を自首し出頭した消息を伝える里村の手紙を収載する。年譜研究が詳細を極めるため、側面的に里村欣三の動きもみえてくる。その意味で里村研究の基礎文献でもある。
昭和48年6月15日、桜楓社刊、A5判、198ページ。
 1954年5月9日、理論社刊の後判であるこの『増補改訂版プロレタリア文学史』は上下2巻で、手持ちの巻の奥付には単に1968年3月第4刷とある。
 
文芸戦線時代には里村と親しかった山田清三郎だが、のち分かれてナップに移った経緯がある。
 下巻において、里村の「苦力頭の表情」「疥癬」をとりあげ、「葉山嘉樹をより労働者的にした感情の持ち主で、」「屈托のない放浪者の夢と野放図さ、それが里村欣三の身上であった」と書いている。
 B6版、上巻360ページ、下巻430ページ。
 古書価は比較的安く、上下揃いで4〜5000円くらい。
 この青木新書(1954年12月15日)の『プロレタリア文学風土記』は、理論社の「「プロレタリア文学史」のコボレ話を、あらためてひろいあげたもの」(はしがき)。
 里村欣三についても、はじめて『文芸戦線』に登場した頃のこと、小牧近江と上海に出かけた昭和2年のことなどいくつかの挿話が紹介されている。
 山田清三郎著、新書版、208ページ+索引8ページ。
 笹本寅著『文壇郷土誌プロ文学篇』は時事新報に掲載された一般読者向けの読み物で、挿話によってつづるプロレタリア文学史である。見出しなどは相当ゴシップ記事風であるが、後付の「跋」で、山田清三郎や佐々木孝丸が書いているように、裏面史ではあるが「十分信用してよろしいもの」。
 昭和8年5月28日、公人書房刊、B6判、278ページ+跋文3ページ。
 古書価は比較的高く、8000〜1万円。
 平野謙や本多秋伍、荒正人らの司会で6回に亘った座談会をまとめたもので、第1章日本プロレタリア文学運動の再検討、第2章ナルプ解散前後と『転向』の問題、第3章社会主義リアリズムの問題その他、第4章戦争中の抵抗運動、第5章プロレタリア文学と民主主義文学、第6章国民文学について、で構成されるが、文芸戦線派の作家に関する言及はほとんどない。
 1955年5月31日、三一書房刊、B6判、286ページ。
 写真で簡潔にたどるプロレタリア文学の歴史。葉山嘉樹には1ページが割かれているが、残念ながら里村に関する写真、言及はない。
 1955年8月10日、筑摩書房刊、B6判、80ページ。
序章知識人左翼の軌跡、?汨S体的主体■中野重治、??“戦争と革命の時代”■一九三〇年、?。大衆化とは何か■芸術運動のボルシェヴィーキ化、?「「政治の優位性」論■批判的傍証、?」崩壊の論理■ナルプ解散前後、という章立てで構成され、プロレタリア文学運動の中で闘わされた論争、対立、分裂を検証している。
 栗原幸夫著、昭和46年11月25日、平凡社刊、B6判、272ページ。
 第一部ではプロレタリア文学運動の流れの中での理論、論争を追い、第二部は作家論で、「黒煙」の作家(内藤辰雄、新井紀一、藤井真澄)、「種蒔く人」の作家(山川亮、金子洋文、今野賢三)、中西伊之助論、葉山嘉樹論、黒島伝治論を収める。
 正面から中西伊之助を論じたものは他に見られないものだが、里村欣三との関係については何の言及もない。
 森山重雄著、1974年1月31日、三一書房刊、変形
A5判、6h
 本書に収める清水茂・畑実の「葉山嘉樹資料及び年譜」は右に紹介する浦西和彦氏の『近代文学資料6葉山嘉樹』に先立つもので、葉山嘉樹の研究レベルをひきあげたもの。葉山の長女財部百枝の「父・葉山嘉樹のこと」は葉山の最後を伝えるもので、貴重な文献。
 監修稲垣達郎、編者〈文学批評の会〉、昭和47年4月20日、新文学書房刊、A5判、369ページ。
 林房雄は昭和39年の『大東亜戦争肯定論』等から反共的な作家と見なされているが、大正12年東大法学部政治学科に入り、「新人会」からプロレタリア文学運動、転向に至るまでの率直な文学的回顧録になっている。
 昭和30年2月28日、新潮社刊、B6変形判、211ページ。
 上の写真は外箱。
 江口渙の『続わが文学半生記』は『わが文学半生記』の続編である。古田大次郎、和田久太郎、中浜鉄らテロリストとの交友を記した自伝で、冒頭の「社会主義への第一歩」の一章は、里村欣三が本名の前川二享で発起人をつとめた「日本社会主義同盟」成立時の状況を伝えるが、直接に里村の情報を伝える記述はない。
 カバー写真、左古田大次郎、右大杉栄。
 1968年8月25日、青木書店刊、青木文庫黄37、文庫版、312ページ。
 雑誌『改造』の元編集長の水島治男氏の『改造社の時代』は、戦前編、戦中編の2巻からなるが、戦前編は雑誌『改造』からみたひとつのプロレタリア文学側面史となっている。
 里村欣三を、昭和6年12月、満州事変直後の満州に派遣したり、昭和7年6月、冷害の東北地方に派遣した当事者で、この著書の中で里村を「(葉山)の愛すべき弟分の里村欣三は、(中略)もっさりした男で、対照的であった。しかしこの二人が奇妙に『文芸戦線』の雰囲気をつくり出していた。」と書いている。
 昭和51年5月25日、図書出版社刊、B6判、290ページ。

この他にも重要な関連図書があります。4コマ分たまれば順次掲載していきます。
『日本プロレタリア文学の研究』 浦西和彦著、昭和60年5月15日、桜楓社刊……「里村欣三の『第二の人生』収載
『日本プロレタリア文学案内』(1) 蔵原惟人ほか編、1955年6月30日、三一書房刊……昭和20年代に行なわれた「日本プロレタリア文学の再検討」の諸論文を収載
『日本プロレタリア文学案内』(2) 蔵原惟人ほか編、1955年9月30日、三一書房刊……各作家論収載、立野信之の「小林多喜二」は秀逸、一読の価値あり